当社のビジョン「"はたらき"から、笑顔を」に共感いただける企業や人に、実際に働きの中から笑顔を生み出す秘訣や成功事例などについて取材する『はたらき見聞録』シリーズ。
今回は、インターナルコミュニケーションの促進により、今や100ヵ国以上の国ではたらく方がいる中で、そのグローバル化を推進されてきた楽天グループに所属する社内報編集長の小泉さんへインタビュー。働き方や文化などが多様化する中でどのようにスケールアップしたのでしょうか?秘訣を参考にしてもらえたら幸いです。
楽天グループ社内報編集長へ「エンゲージメントを拡大する12の秘訣」を取材
―― まずは楽天グループの社内報について教えてください。どんな方針を持たれていますか?
社内広報の取り組みとして、RNN(Rakuten News Network)という名前の動画ニュースを、ほぼ毎日配信しています。全世界に広がるエンゲージメントを支援していると考えています。
―― 動画を毎日配信されるその頻度と熱量に驚きました。実は私も楽天の社員として社内報委員をした経験があります。当時Web社内報で記事を配信していましたが、なぜ動画を導入したのでしょうか?
動画にした理由は3つあります。
①記事でしっかり情報提供するには長文で説明する必要があった
70以上の事業があるので、事業の成り立ちや業界事情・成果を説明する際に長文のテキストになりがち。
②グラフ図解やアニメーション、強調テロップなど補足できる
サービスを動かす従業員やユーザー様の笑顔と熱量など、場の雰囲気を伝えるのにも映像は適している。
③第二外国語となる従業員向けには、理解を促すサポートができる
公用語が英語のためグラフなどのビジュアルや字幕で、説明の補足が可能。
―― 動画のメリットが理解できました。多様性豊かな環境なので、直感的にひとめで理解できる伝達方法が適しているのですね。一方、毎日配信だと運用にもパワーがかかるのではと想像しましたが、運用体制はどのような感じですか?
チーム内では、事業別の担当者を決めて情報を吸い上げ、定例会議で方向性や採用トピックを決めています。制作のリソースは企画構成と配信やデザインを担当してくれる社員が数名と、同じフロアに常駐で協力会社の動画クリエイターさんが制作してくれています。両者で膝を合わせながら撮影のイメージ合わせや、テロップ入れなどの業務もできてとても助かっています。
―― プロと一緒に作れるのは心強いですね。ちなみにコンテンツのこだわりはありますか?
「リアリティ」と「ライブ感」をとても大事にしています。
綺麗なビジュアルだけではなく、動画だと現場の息遣いや肌で感じるライブ感を映像で伝えられる。社内広報メンバーが一貫して、企画から映像ディレクションまで行っているので臨場感のあるコンテンツが作れます。さらに、インタビューの質問など従業員との共通理解がある人が構成要素にしっかりと落とし込むことで、共感を呼ぶストーリーができるのです。
―― 同じ従業員だから等身大のコンテンツが作れるのは、社内報ならではの魅力ですね。ライブ感はどうやって演出するのですか?
インタビューはドキュメンタリー調に、その中の人がいかに想いを込めて頑張ったのか掘り下げるときもあれば、鮮度を優先して、新サービスのローンチ間もない状態でストレートな情報を、速報として配信する時もあります。最近はイベント会場で従業員が動画を撮影・編集して、数時間後には速報ニュースとして配信することもあります。
秘訣1:毎日動画ニュースを配信する
秘訣2:コンテンツは「リアリティ」と「ライブ感」
秘訣3:従業員と同じ社内広報メンバーが一貫して作る
秘訣4:インタビューはドキュメンタリー調も
―― 全従業員をエンパワーメントするために、どのような取り組みをされましたか?また、多様性についての取り組みについても教えてください。
楽天グループは30ヵ国と地域でサービス展開、100ヵ国と地域からの仲間が働いています。(2024年5月現在)
環境問題対策への熱量が高い国や、ダイバーシティへの話題が多い地域など違いはありますが、日本とグローバルで、関心の高いテーマが共通であることが特長かもしれません。より事業に根づいた情報やグループ全体の戦略が、みなさんの知りたいコンテンツだという認識です。
―― 事業も多様で、楽天市場からスタートしたEC事業をはじめ、フィンテック、エンターテイメント、スポーツ事業もあり、最近はモバイルという新しい事業形態にも挑戦していますね。
各事業がグローバルに展開しているので、社内広報メンバーも従業員と同じく多様に構成しています。例えば、ベテラン社員や中途・新入社員、また国籍も多様で日本や海外国籍の方で構成されています。アメリカ・ヨーロッパ、アジアに拠点を持ち、各エリアと連携しています。現地から頻度高く情報交換しながらニュース化しています。
―― 各拠点に仲間がいるので、次回はどこの国や地域の事業を取り上げるべきか、現地の情報をキャッチアップして、コンテンツフィットさせているのですね。
その通りです。サービスや活動の当事者をはじめ関わる人もしっかりリアクションしてくれます。その際に、事業を動かしている人の文化や、仕事を進める上で常識も少しずつ異なるので、だれもが理解しやすい見せ方・伝え方で作ることをモットーにしています。
秘訣5:「事業」と「人」に光をあてる
秘訣6:誰もが理解しやすい伝え方にする
―― 楽天グループのカルチャー醸成に役立っているコンテンツを教えてください。
まずは、社内広報で実施している従業員定例調査の結果を紹介します。四半期決算概要や、事業速報、サービス紹介が視聴需要として高く、最近ではAI活用事例も注目が高いです。
視聴理由TOP
・他事業の取り組みを知りたいから
・楽天グループの戦略を知りたいから
・事業や従業員がどう社会をエンパワーしているか知りたい
印象に残った・役立った情報は?
・経営陣のメッセージやアクティビティ
・ビジネスや部署の成功事例紹介や取り組みの紹介
・新規ビジネスや新しいサービスの紹介
・テクノロジーに関するトピックス
―― 確かに、経営や事業系の傾向が伺えました。みんなが経営者意識を持つことでベンチャーマインドが培われるのですね。また、IT企業ということで最新テクノロジー系も納得しました。
固い系もあれば、新入社員の研修ドキュメンタリーも人気がありますよ。
引用:RNN 世界中の楽天スタッフが贈る2024年幕開けダンス
また、全ての従業員が世界横断で盛り上がるコンテンツとしては、エンタメ系が鉄板です。年始に配信している「新年幕開けダンス動画」が大変人気で、世界からダンス映像をもらい1本にまとめるユニークな企画となっています。
他にも、毎年ハロウインでは従業員みんなが仮装して非日常を楽しんでいます。
―― 大人が思いっきり楽しめる特別な日になっていましたね。私も参加していましたが、毎年何になろうか悩んでいました。真面目な上司が憧れのヒーローのコスプレをしいて無邪気な一面も知ることができ、部署みんなでミリオンズになりきるチームもいて一体感が生まれました。
スポーツ系も熱量が高いですよ。
楽天グループのサッカーチーム・ヴィッセル神戸2023年のJ1リーグ初優勝を祝して、RNNも取り上げました。従業員はもちろん、サポーター様や神戸の皆さんの姿だけではなく、ヴィッセル神戸がどのような歴史的背景を持つチームで、楽天がどのような大義を持って運営を行っているかを伝える機会となるように作りました。そのため動画では創立からのエピソードを振り返っています。
―― 優勝までに至るドラマを知ることで、より深い感動が生まれますね。
引用:RNNヴィッセル神戸 J1初優勝、地域エンパワーメントの軌跡
さらに全従業員が参加する「朝会」でも同様の動画を放送しました。みんなで優勝の喜びを分かち合い、拍手の音も一層大きいものとなりました。また、メモリアルな瞬間は社内ロイヤリティを高める機会となりますが、「優勝」を単なる優勝としてほしくないとも考えています。楽天グループの従業員だからこそ、当事者としてのそこまでの道のり・ストーリーを自分の言葉で語ってほしいと願っています。そして、従業員が説明できるだけの十分な情報を社内報で提供することが、私の仕事だと感じています。
―― すばらしいことです。例えば当事者だから伝えられる説明とはどんなことですか?
東北楽天ゴールデンイーグルス2013年の優勝時も、どのような経緯で新球団として誕生し、東日本大震災という大変困難な状況も乗り越えて、地域の皆さんにとってこの優勝がどのようなものであるかを社内報で伝えました。
―― 私も当時一緒に応援したことが1番の思い出です。まだ東北大震災の傷が残る中、ホームグラウンドの球団が錦を飾り日本中が歓喜に包まれる中で、応援団長の小泉さんとみんなで感動のムーブメントが起きました。その時、私もこの会社に入ってよかったと、心から感動しました。
実は当時大分県に住む80歳の祖母から電話がかかってきたので、社内報から知った優勝に至るまでのドラマを噛み砕いて説明したことを覚えています。
スポーツの中でも野球は年齢層を超えて好きな方が多いので、菊池さんのお婆さまも喜んでくださったのですね。菊池さんが説明してくれた事がまさにそうです。本当に、ありがたいことです。
秘訣7:従業員がまわりに自分の言葉で説明できるように
実は最近、社内報の動画ニュースを企業サイトでも公開しています。楽天グループの活躍を知りたいと思ってくれる人たちへむけて、社内報のコンテンツを配信すると、会社の枠を超えて見てくれる体験をしました。
―― 企業ブランディングとして社内外報に取り組む会社も多いですが、楽天の社内外報はどのような目的がありますか?
まずは一般の方に楽天グループをご理解いただくための情報を提供すること。そして、将来的に楽天へ入社を検討する方が楽天のカルチャーを理解する手助けをする。さらに、従業員が家族や知人に自分の活躍や会社を伝えるツールになれるよう目指しています。
様々なコンテンツを社内に配信=社外のみなさまに楽天を理解してもらえるという考えで、最近ではほとんどのコンテンツを両方で公開しています。
―― 特に印象深いコンテンツはありますか?
ヴィッセル神戸の優勝については、社内外広報みょうりに尽きる体験ができました。先ほどお話した優勝への軌跡・サポーターの皆さんの歓喜をまとめた速報のほかに、もう1本ニュースを作りました。選手・スタッフの心の動き、活動の変化がどのように優勝へつながったのか、それを「楽天主義」という従業員共通の価値観・行動指針と紐づけて解説したものです。ヴィッセル神戸の社長や従業員の皆さんへ話を何度も伺い、また「楽天主義」を従業員の共感を共に浸透させるチームメンバーと何度も相談して、リアルな「楽天主義」の映像ができ上がりました。「朝会」でその映像が流れたあとに、ヴィッセル神戸の社長が当時の想いについてライブで解説してくれたので、従業員の皆さんの理解も深まったと思います。さらに、優勝速報とこの舞台裏のニュースを会長の三木谷が自身のXで共有してくれました。
コーポレートのSNS展開もあり、合計約80万件の表示とフォロアーの方々から多くのコメントをいただきました。ヴィッセル神戸だけでなく楽天を応援してくださる方々がコメントを下さり、やりとりの波紋が広がりました。社内に入り込むことでしか作れない「情報」・「場」・「時」をコーディネイトできる醍醐味と、社外の方々の気持ちを少しでも揺り動かした手ごたえを味わう、貴重な機会となりました。
―― 三木谷さんへ小泉さんからお話されたのですか?
実を言うと私から伝えたことは1度もないですが、これまでもかなりの数の動画ニュースを投稿してくれています。私も投稿後に気づいて毎回驚くのですが、「朝会」で放送したものやご自身で探してくれたものを、瞬間投稿してくれています。また、コーポレートのXを通じてショート動画を展開することで、より多くの方に視聴されるようになりました。
引用:@hmikitani 楽天グループ会長三木谷氏さんの公式Xより
社内広報のメンバーが登場することもありますよ。
いきなりですが「楽天シニアダレデモダンス」をご存じですか?楽天シニアの健康アンバサダーであるSAMさんが考案した公式ダンスで、誰でも簡単に踊れるそうです。このダンスの紹介イベントを取り上げることになり、「本当に誰でもダンスができるのか?」というテーマで、実際に社内広報のメンバーが踊ってみる、という企画を考えてくれました。
―― テンポが遅れている方もいらっしゃいますが、楽しそうですね。
この人間っぽい感じが魅力だと感じています。私たちは製品説明をしているわけではないので、RNNとして、どんな気持ちで楽しんで欲しいのか楽天の人がユーザーになりきって体験して伝えることも大事だと思っています。
秘訣8:オープン社内報へ進化させる
秘訣9:社長や従業員、社内広報メンバーも登場!楽天との一体感を醸成
―― "巻き込み術"についてお聞きしてもよいですか?
具体的には配信後のアクション「周知」と「エンゲージメントの浸透」になります。
周知は3つの方法でしています。
1 全社会議「朝会」で動画を放映
毎週月曜日に開催される全社会議「朝会」は、社員全員が一堂に集まります。事業戦略の説明だけではなく、事業の大義やお客様の反響の声など、理解・共感する瞬間を一緒に味わうことを目的として、その「朝会」の冒頭で「RNN」が放送されます。
歴史的な節目や、優勝・事業の目標達成といったターニングポイントを全社員が動画で理解でき、またその実現の立役者が世界中からその動画に登場してくれるので、「自分や仲間たちが動かす会社」であることにリアリティが増します。共鳴度が高いと動画終了時の拍手の音も一層大きくなり、多くの人たちにとって大切な時間になっているのではないかと思います。
2 コミュニケーションアプリ(Viber)のRNNコミュニティでポスト
従業員個人のスマートフォンに入れるチャットアプリにRNNグループを作り、情報共有も活発化しています。インタラクティブな特長を生かして投票やクイズ企画、イベント当日の速報、ライブ配信告知、ショート動画の提供などで、視聴とエンゲージメントを高めています。
3 各事業サイトへ連携の呼びかけ
社内広報課の定例会議では、どのように事業へお声をかけるかなどディスカッションしています。
―― 全社をあげての大きな取り組みですね。経営陣が社内報を重要だと捉えているからこそだと感じます。また、浸透させるには、事業部と連携して周知のタッチポイントを増やすなど、丁寧にフォローしていくことが大切だとわかりました。
そういえば、Viberのフォローキャンペーンも実施しましたよ。ハロウィンイベント時に、社内広報メンバーがサンドウィッチマンのようにQRコードを胸と背中につけ、フォローを呼びかけながらお菓子持参で関東近辺のオフィスを練り歩きました。フォローの増加はもちろん「RNN」というメディアをフレンドリーに感じてもらえる面白いイベントになりました。
秘訣10:丁寧に周知をすると浸透していく
―― 従業員エンゲージメントの効果はどのようにしていますか?
従業員エンゲージメントのサーベイなどは別の組織が実施していますが、その結果を共有してもらい、情報が足りてないところや注力するべき懸念点に対して検討して、ニュースへ反映させることを始めています。社内広報としては、半年ごとの定例調査を実施していますが、おかげさまで高いスコアをキープしています。また、スコアが減るなどの変化をキャッチすると、そこに対して様々な改善施策をてこ入れしていきます。
―― どのようなてこ入れか教えてください。
コロナ渦に、在宅勤務がメインとなり始めた頃の事例です。
入社3年未満の社員のRNNに対する期待度や事業理解のスコアが、他の人たちと比べて下がったことがあります。オンラインミーティングでも業務がメインで雑談がしづらい、気軽に相談できないなど、環境要因でつながりが薄れてきたと感じていたのかもしれません。
そこで、紙の社内報を臨時発行して自宅へ届けることで、スコアが回復しました。
―― 冊子ではどんなコンテンツを作ったのですか?
入社3年目までの同じような立場の人が、どのように業務をしていて、楽天で自分の人生をどのように作っているのかを伝えました。
―― 多くの企業が新卒の方の共通課題として、入社したとたんに新型コロナで意思疎通が取れず、孤独を感じてモチベーションが下がる、もしくはカルチャーフィットしづらいという中で、楽天ではプッシュ型でコンテンツを届ける打ち手が効いたのですね。
秘訣11:変化は敏感にキャッチして早めに策をうつ
―― 最後に、5年後10年後にRNNやコミュニティはどうなっていると良いと思いますか?
無くてはならない情報網であり情報の貯蔵庫になっていたいですね!
楽天グループの想いやみなさんの活躍を、これからも日々アーカイブとして残していきます。
秘訣12:無くてはならない社内報になれるよう、日々前進
―― インタビューにご協力いただきましてありがとうございました。後半は、小泉さんの素顔に迫ります。
(取材日:2024年4月18日 / 取材者:菊池由佳)
取材にご協力いただいた方
楽天グループ株式会社 広報部 社内広報課の小泉和美さん。2000年楽天グループ入社し対外広報を担当。2005年から社内広報に携わり、紙社内報『楽がき』を毎月発行。2009年に紙からwebのデイリーニュースに変更し、2015年から動画のデイリーニュースを配信している。近年は社内動画ニュースを社外にも配信中。ほかにも、アーカイブ活動も立上げ、10年史、20年史の冊子発行や、25周年イベントにも参画。