当社のビジョン「"はたらき"から、笑顔を」に共感いただける企業や人に、実際に働きの中から笑顔を生み出す秘訣や成功事例などについて取材する『はたらき見聞録』シリーズ。
今回は、「健康経営」を推進しているNECのタスクフォースのお二人へ活動内容と反響について伺いました。
NECの「健康経営」を取材。社員一人ひとりの健康促進が企業価値を高めるって本当?
―― 「健康経営」とは、どういったものでしょうか?
工藤さん:社員の健康を経営視点で考え、社員一人ひとりの健康を維持・向上することと捉えています。その推進により、生産性の向上や組織の活性化、さらにエンゲージメント向上を実現し、企業価値を高めていくことにもつながると考えています。
田中さん:近年では、中長期的にビジネスを成長させる経営方法だと注目されています。
その理由として、日本特有の少子高齢化問題とそれに伴う労働力不足があります。採用した社員に長く働いてもらうことで労働力不足を補うことができ、さらに社員が健康でやりがいを持って仕事ができれば、自然と業務効率も高まるということですね。
工藤さん:社員の心身ストレス軽減や労働災害が減少すれば、医療費の削減も期待できるなど国としても推進する取り組みとなっており、多くの日本企業がその施策を行っています。
―― NECが健康経営を導入したきっかけや、その時代背景、はたらく環境の変化などあれば教えてください。
工藤さん:もともと当社では以前から、産業保健体制を整え健康管理に取り組んでおりましたが、2019年に「NECグループ健康宣言」を制定し、健康経営に取り組み始めました。
2018年に掲げた「2020中期経営計画」の中で、社員の力を最大限に引き出す「実行力の改革」を掲げ、人・組織への投資を強化しました。
チームが最高のパフォーマンスを上げるためには、社員が自ら考え、自ら行動することが重要という考えがこの取り組みの背景にあり、健康経営活動は、それをベースとして、社員一人ひとりが安心して生き生きと働くことを実現していくための活動と捉えています。
―― NECの健康経営にはどんな目標がありますか?
引用:NECグループ健康宣言より
工藤さん:「NECグループ健康宣言」には、単に病気にならなければよいということではなく、よりよいコンディション(健康状態)を目指して行動し、心身ともに健康に働くことで自己実現を果たし、ひいてはNECグループの社会価値創造に繋げたいという思いが込められています。
一人ひとりのより良い生活と豊かな社会を実現させるために、新しいチャレンジや仕事のやりがいなどメンタル部分も含めて、まずは社員の自律的な自己実現を促すこと、そして次にその先にある社会を良くしていくことを目指しています。
田中さん:実は、健康経営の取り組みが評価されて、昨年、経済産業省による「2024年度 健康経営優良法人(ホワイト500)」にて、5回目の認定をいただきました。
―― 推進する部署にはどんな役割がありますか?
工藤さん:私たちの部署では、NECグループで健康経営を促進していくための方針を立てて、健康施策を行っています。また、社員自らアクションして、良いコンディションで仕事に集中して取り組める状態を実現できるように、サポート体制を整えています。 具体的には3つの方針を決めました。
①「健康リテラシーの向上」
②「健康に良い生活習慣の定着化」
③それを実現させる手段としてNECの強みである
ITリテラシー、プラクティス、テクノロジーの「デジタル技術の活用」です。
―― 同具体的に、どんな取り組みをしていますか?
工藤さん:2019年度より「健診結果予測シミュレーション」を導入しています。
現在6万人を対象に定期健康検診を行っていますが、過去からの膨大な診断結果と生活習慣結果のBIGデータをベースにAI解析で将来の予測モデルを導くような仕組みを活用しています。
具体的には、健康診断の問診で、運動量や睡眠量、食事スタイル、飲酒・喫煙の有無などの生活習慣を回答してもらいます。その判定結果から3年後までの生活習慣のリスクが可視化できることで、リスクを早めにキャッチアップすることができます。
引用:NEC健診結果予測シミュレーション画面より
田中さん:不安を煽るようなリスク内容だけを通知して終わりというわけではありません。自身のライフスタイルの状態に合わせた時に、どうしたら良くなるかまで落とし込んで提案してくれます。
たとえば、運動不足の方であれば、歩行や身体運動を1日1時間以上にすることでこの数値が改善されますなど。もしくは、たばこを辞めるとこれだけあなたの健康がアップしますよといった改善ポイントや、1番おすすめの行動指針なども提案してくれます。
引用:NEC生活改善シミュレーション画面より
―― 導入後の効果はいかがですか?
工藤さん:毎年実施のアンケートでは7割の社員が「今の生活習慣を変えたい」という回答をしました。さらに、3年後シミュレーション結果を利用してない社員と利用した社員で比較すると、利用した社員のほうが、腹囲のメタボリックや高血圧について、有意に改善しているという調査結果になりました。
田中さん:他の方の結果をみて、自分もたばこを控えてみよう、お酒の量を減らしてみようと行動に移した結果その差が出てきているのではないかと思います。
工藤さん:自分と同じような年代や体型、そして生活習慣の人とのデータが比較できるし、具体的な生活改善案がもらえる。また改善案を頑張って続けると3年後にはどれくらいの効果が現れるか数値でみせることで、社員が自立的に健康促進したいと考えるきっかけ作りや、実行するために背中を押すことができたらうれしいです。
田中さん:たとえば3年後に高血圧になるリスクが予測されるのであれば、今から塩分摂取を控えようなど、予防医療からみても行動変容に繋がる仕組みだと思います。
―― 逆に、課題や改善点などありましたら教えて下さい。
工藤さん:シミュレーション画面のUI・UX改善は日々行っています。特に工夫している点としては、個人用にカスタマイズした健診結果の説明動画を用意しています。
動画内では、この検査数字が高い場合どうなっていくのか、またはどんなリスクが予測できるのかを説明してくれるのですが、職場でみる時は周りに健康情報が聞こえてしまう心配もあるので、音声なしでもわかるような画面設計に改善しました。
さらに、自分で体感してもらったほうが納得感も多いということで、シミュレーショングラフを手動で動かせる仕様に仕立てました。私もやってみて、グラフが変わっていく様子をみて、今の自分が何をしなければいけないのか気付くことができました。たとえば、LDH(乳酸脱水素酵素)の数値が高いと心筋梗塞などのリスクがありますが、改善案を参考に今は食事量を腹八分目に、1日1回30分の運動をすることを意識しています。
田中さん:食事や運動、睡眠など全てを改善するのが大変な場合は、運動だけにフォーカスしたシミュレーションも見ることができます。
―― 医療的な観点だけではなく、組織のパフォーマンス向上においても効果的な対策はありますか?
工藤さん:直近だと、メンタルヘルス対策を実施しました。
まずは法定対応として、社員にストレスチェックを受けていただき、今の自分がどういう状況なのか把握してもらいます。また結果がハイリスクだと認定された方を対象に産業医との面談を行っています。
2023年度は、これに加えて組織単位で集団分析することで、職場の環境改善へ繋げる取り組みにもチャレンジしています。 具体的な対応の1つとしては、いくつかの組織をターゲットにお声をかけて、保健師がファシリテーターで入り職場メンバーで話し合ってもらう「ワールドカフェ」の場を設けました。
その場では、「ワークライフバランスを保ちながらパフォーマンスを最大化するためには?」といったテーマでディスカッションし、テレワークの活用方法などの身近なものから、「連休取りにくくないですか?」など、普段なかなか話しづらい内容もディスカッションしてもらいました。結果、チーム内の相互理解やコミュニケーション活性化へ繋がりました。この取り組みは、ストレス対策だけでなく働き方やチームにおける相互理解にも役立つのではないかと期待しています。
ただ一方で、短期間に結果が出せる対策でもないので、中長期的に継続して、それをどう評価していくのか考え、次の打ち手に活かしていくことが大切だと考えています。
田中さん:コロナ渦に増えたテレワークも、ここでのテーマになっています。 モニター越しでは伝わらない温度感や、仕事と関係のない話題や雑談をしづらい雰囲気もまだ残っています。ワールドカフェをその見えない「遠慮の壁」をぶち破る施策にしたいです。
工藤さん:まだ課題もありますが、このような取り組みを通じて、組織アプローチを拡げ、いずれは改善にむけてチームで自走できる状態まで持っていきたいですね。
―― 社内エンゲージメントを加速させ、企業カルチャーの醸成に役だっているコンテンツはありますか?
工藤さん:NECでは全国に部署をこえたサークルが80種あり、仕事以外の好きなことで繋がるコミュニティーがエンゲージメントを加速させています。体育会系だとテニス、サッカー、野球、華道、ゴルフ、文化系だと囲碁や将棋、茶道などの他に、最近新しくできたサウナ部やeスポーツ部などが人気です。
サークル活動の促進支援として、大会参加費の一部補助や、体育館の利用料、会議室の利用補助などをサポートしています。
また、「感謝(Thanks)」と「称賛(Praise)」といったポジティブなフィードバックを、社員同士のチャットで"デジタルステッカー"を気軽に送り合うことで、「互いを認め合い・高め合う文化を醸成すること」を目的とした取り組みも行っております。
―― はたらく人やはたらく場所が多様化する中で、共通の健康評価基準や指標はありますか?
工藤さん:健康経営において指標はどう考えるのかは難しいですが、一般的には健康診断の結果や生活習慣に関する統計が基準になると思います。我々も肥満率や運動習慣の状況はモニタリングしています。他には、がん検診の数値目標でいうと、厚労省が掲げる受診率60%といった指標もあります。
また、ダイバーシティの取り組みとしては、LGBTQの方の健診に関するフォローを実施しています。従来は配慮が難しかったのですが、人間ドックの受診先を健診代行ベンダーに依頼して、LGBTQの方の人間ドック受診に関して配慮いただける医療機関を全国で調べて、その結果を社内で公開しています。
田中さん:他にダイバーシティのひとつとして「女性特有の健康課題」への取り組みがあります。
NECでは新卒採用でもキャリア採用でも優秀な女性社員が多く入社しています。これはNECに限らないことですが、企業はこれまで性別を問わずメタボリックシンドロームや禁煙対策を実施していると思います。しかし性差医療の観点からも、結果的に対策の対象者が男性中心になっていました。そこで、今後は男性への対策と同レベルに女性への対策を実施していくための方針を策定しています。
具体的には、女性自身が月経関連症状や更年期症状を抱えながらも、仕事を優先して受診に至っていない現状がアンケートにより分かってきたので、まずは、女性自身のヘルスリテラシーを向上させること。次に、上司や同僚に女性特有の健康課題について気軽に相談できる風土を醸成していくことです。ダイバーシティ担当者や管理職教育担当者とも連携し、男性も女性もサステナブルに働き続けられる環境を整えることも我々の役割だと考えています。
工藤さん:また女性だけに限らず、結婚や子育て、親の介護など、社員一人ひとりのライフステージに寄り添ったはたらく環境づくりを目指していきたいと思います。
―― 他にも、社員から人気の健康促進制度はありますか?
工藤さん:ここ数年「検診制度の見直し」に取り組んできました。
健康診断には、定期健診だけではなく、対象年齢の方が任意で受診できる人間ドックがあります。従来は人間ドックを受診する場合に3,000円の自己負担がかりましたが、2024年から自己負担ナシに変わりました。
田中さん:他の電気関連企業と比較しても、自己負担ナシはめずらしいことなのですよ。この制度の見直しは、より多くの方が「がん検診」や「婦人科検診」などを受診できる機会を持てるようにと、健康保険組合協議をして実現しました。
―― NECの健康経営は5年後、10年後どうなっているとよいですか?
工藤さん:健康経営の目的である、社員一人ひとりが、自ら心身のコンディションを整え、パフォーマンスを最大限発揮できる姿になっていること。また、自社の取り組みを社会やお客さまに価値として提供し、健康課題の解決につながる姿を目指したいですね。
―― ここからは、プロジェクト責任者の工藤さんの素顔に迫ります。
まずは、工藤さんの仕事のやりがいを教えてください。
社員みなさんにポジティブな影響を及ぼすことです。
健康に関する取り組みは幅が広く、生活習慣改善と言っても、運動・食事・睡眠など色々なテーマがありますし、メンタルも一次予防・二次予防・三次予防とアプローチの観点が複数あります。多くのことに関わる必要があり大変ですが、社員一人ひとりのパフォーマンスに貢献できることにやりがいを感じています。
―― 工藤さんが感じる企業カルチャーとは?
真面目な人が多い印象ですが、イノベーションへの情熱を持つカルチャーです。
―― 日々の社内コミュニケーションで、大切にしていることはありますか?
できる限りオープンなコミュニケーションを意識しています。
当社で大事にしている行動基準の1つに、「組織はオープン、全員が成長できるように」というものがありますが、チームとしてパフォーマンスを発揮するために自分の考えや意見など、時には厳しいこともメンバーの誰とでも率直に言い合えるようにしていきたいと考えています。
―― 働く上で一番大切にされている、軸はなんですか?
変化を恐れない、ということ。
世の中の変化が激しいですし、正解がないことも多い中でこれまでの考え方や、やり方にこだわり過ぎないようにしたいと思っています。
―― 仕事とは、ひとことで表すとズバリなんですか?
「信頼」です。
信頼関係がどのような仕事でも必要だと思っています。
また、求められていることに対して、期待以上に応えることで信頼関係を築けると考えています。
―― 工藤さんにとっての健康経営とは?
NECにおいては、社内向けの取り組みというだけでなく社外にインパクト与えられる業務だと思っています。それは、いわゆる人的資本経営の一環ということだけでなく、NECの取り組みがソリューションとして社会へ価値を提供していくことも含んでいると認識しています。
―― 働く中で笑顔が生まれた体験やエピソードがあれば教えてください。
健康は社員のみなさんの生活に身近なテーマなので、敏感に反応される方も少なくないです。過去に実施したオンライン禁煙プログラムの提供については、活用された方から、おかげさまで喫煙をやめられたと感謝のコメントがあり、関わったメンバーや、私自身もうれしく思いました。
―― 最後に、見ている方へメッセージをお願いします。
工藤さん:NECグループが企業として成長していくために、個々の健康は全てのベースになると思います。社員のみなさんが病気にならなければよいということではなく、より良いコンディションを実現できるよう、様々な視点で引き続き健康経営に取り組んでいきたいと思います。また、当社の取り組みを社外にも展開していければと考えています。
田中さん:健康経営は一朝一夕には結果を出すことが難しい取り組みです。しかし、会社を支えているステークホルダーである社員がいきいきと働けるような仕組みづくりや環境整備を行っていくことが、会社を超えて社会を良くしていくことに繋がると信じて推進していきたいです。
―― インタビューにご協力いただきましてありがとうございました。
(取材日:2024年4月17日 / 取材者:菊池由佳)
取材にご協力いただいた方
NECは、"海底から宇宙まで"、生体認証やAI、5Gなど最先端のデジタルテクノロジーを活用し、世界中の多岐に渡る業種のお客さまに幅広く価値を提供しています。NECの創立は1899年、今年で125年目を迎えます。グループ会社を含め、284拠点50以上の国と地域に、約12万人の従業員が所属しており、「安全・安心・公平・効率」という社会価値を創造し続けて参ります。