当社のビジョン「"はたらき"から、笑顔を」に共感いただける企業や人に、実際に働きの中から笑顔を生み出す秘訣や成功事例などについて取材する『はたらき見聞録』シリーズ。
今回は、三菱地所のエリアマネジメント企画部の橋本さん、猿橋さん、長坂さんへ、ワーカーと共創してつくる「丸の内ファンづくり計画」の活動についてインタビューさせていただき、街作りに取り組む中で、ファンの巻き込み方や、コミュニティの場づくりについて伺いました。
当社も社員を含む「みんなが会社のファンになる」にサービスを展開しているため、ファンづくりの秘訣をぜひ参考にしてもらえたら幸いです。
ワーカーと共につくる。三菱地所の「丸の内ファンづくり計画」
―― 日本最大のビジネス街の丸の内ですが、なぜ、街づくりとして「街のファンになる・ワーカーの笑顔を生み出す活動」に取り組んでいるのですか?街全体をブランディングしているのがユニークな取り組みだと感じました。実は、私も丸の内ファンコミュニティのメンバーとして季節イベントに参加しています。参加して1年が経ち丸の内のことがだんだん好きになりました。
橋本さん:いつもありがとうございます。突然ですが丸の内は広さどれくらいだとおもいますか?
―― 大手町・丸の内・有楽町エリア一体ですよね?想像もつきません...
橋本さん: 実は120ヘクタールあります。このエリアにおける三菱地所自体のビル所有は3分の1ぐらいで、残りは違う企業さまが所有されています。地権者さんや80以上の団体の企業さまと一緒に合意形成をして街づくりをしています。
―― 東京駅をはじめクラシカルな建物があり絵になるスポットが多く、グルメレストランや、美術館、専門店など、働くだけではない大人も遊べる、洗練された街ですよね。
私も、会社帰りについ寄り道を楽しんでいます。
長坂さん:週末はまた風景が変わりますよ。クリスマスシーズンはイルミネーションを楽しむ女子高生がインスタやTikTokの撮影を楽しむ姿も目にします。お子さま連れのファミリーやリタイアされた方など訪れる方も多様化されて、この街がダイバーシティになってきていると感じます。
―― 他にも学びのイベントがあり、ファンコミュニティやワークショップなどに参加すると、他の企業の方々と一緒にディスカッションして知的好奇心が満たされて楽しいです!
橋本さん:私個人の意見ですが、人生の視点で幸福感を考えてみると働くだけではないと思うのです。今は働くことと楽しむことがボーダレスになっている時代になってきているので、オフィスに「学び」や「遊び」の要素も付け足すことによって、より広い層の方へ、より多くの時間に、丸の内とのタッチポイントを提供していきたいと考えています。
長坂さん:オフィス帰りに買い物もできて、劇場を楽しめ、遊びもある。それぞれの街の特色を消すのではなく、一体感を持ってエリアとしてどう融合させていけるか、今も東京のシンボリックな存在として丸の内エリアは広がりを持ち続けています。
―― 7年間でワーカーとオフィスが2割増え、丸の内は35万人が働く街へと変革したそうですが、コロナ禍もある中なぜ増えたのでしょうか?
橋本さん:実は、弊社もコロナの影響を受けました。20年春の緊急事態宣言によりリモートワークの導入が広がりました。コロナ前のワーカーのライフスタイルは、スーツを着て毎日丸の内へ通勤し、休日は住んでいる街で過ごすイメージがありましたが、コロナ渦にテレワークが当たり前になる中で、オフィスビルの存在に危機感を覚えました。
―― 危機感について、もう少しお聞きしてもよいですか?
橋本さん:コロナ前は毎日来る街だったのが、コロナ禍は行かなくてもよい街になってしまう危機感です。あえてここに何かがあるから来たいと思っていただけないと、丸の内は人が集まる場所じゃなくなってしまうという危機感から、どうしたらまた皆さんがこの街に戻ってきていただけるのかを考えて「ファンづくり」を検討するようになりました。
猿橋さん: 週5日強制的に来る街ではなく、来たい人が来る街、自発的にここへ来ると何かを生み出す気持ちになる街にしていくべきだと考えています。
―― 「丸の内のファンづくり」では、具体的にどんな活動をしていますか?
猿橋さん:多くの人に好きになっていただくために、まずは既に好きな人たちから意見をいただくことにしました。
3ステップあります。
1つ目は、まずは丸の内という街を皆さまにどのように評価していただいているのか、2021年度からワーカーへ向けて調査・分析をして、街の魅力を定期的に確認しています。
2つ目は、その調査結果をもとにファン層の定義をします。
丸の内が好きな方(=ファン)や、ある程度好きな方(=ライトファン)向けにイベントを定期的に開催し、丸の内の新しい一面を知っていただく、新しい・特別な体験をしていただける機会を提供しています。
3つ目は、丸の内が大好きという方(=コアファン)の少人数コミュニティをつくり、丸の内をより魅力的な街にするための意見やアイデアをいただいています。
―― ファンにも愛着の深さにレベルがあるのですね。どのようなアプローチの戦略を考えていますか?
猿橋さん:まだ丸の内の魅力を知りたて、というライトファンの方もいますが、我々はその方々が一番の顧客ポテンシャルを秘めていると考えています。そして、その方々のファン度を引き上げていくために、9月に開催した『さらば有楽町ビール 新しい有楽町で逢いましょう』イベントでは、閉館を控えたビルで一緒にオクトーバーフェストで盛り上がり、街の新しい魅力を知ってもらう施策を実施しました。
―― 私も参加しましたが、みんなで「プロスト! (Prost)」ドイツ語の乾杯でスタートして、プロジェクターで有楽町の歴史など説明を聞き新しい魅力を発見しました。
長坂さん:ありがとうございます。他にも、夏祭りでは浴衣を着たみなさんと打ち水を、クリスマスではサンタユニフォームを着たみなさんと仲通りを一緒にパレードするなど、参加型で非日常を楽しめる演出を散りばめたイベントを企画しています。
―― コアファンに対しては、いかがですか?
猿橋さん:「本当に丸の内が好き」な方に集まっていただき、街づくりのアイデアをいただいています。せっかくなので、共創していけるコミュニティとして一緒に面白い施策を打っていきたいと思います。
―― 続いて、ファンにするための巻き込み方やコミュニケーションの秘訣はありますか?
猿橋さん:2つあります。
- 好きな方の中でもより大好き・熱量の高い方(=コアファン)をまずはターゲットにしています。
コアファンの方々に満足していただければ、他の多くの方にも刺さるだろうというのが理由です。好きな人ほどより周りの人へ推奨し波及効果があるという点です。 - ワーカーの視点に寄り添って企画を考える。「丸の内で働いていてよかった」と感じてもらえる施策を考えて実行をめざしています。
―― 特に印象深かった施策はありますか?
猿橋さん:2023年12月に開催した「サンタパレードとスカイバスのファン企画」ですね。コミュニティメンバーからのアイデアを膨らませながら、ワーカーに街の一員になっている一体感をどのようにしたら感じていただけるか、丸の内で特別な体験ができたと感じてもらえるように、チームで何度も検討を重ねました。当日はサンタの衣装を着てパレードをするだけでなくクリスマスを目的に訪れた来街者へモニュメントのプレゼントを配っていただく演出を行いました。
―― 私も参加しましたが、自分が"おもてなし"をする側となり、街の一員となれたと感じました。
猿橋さん:さらに、その日限定の丸の内イルミネーションバスツアーを企画して、特別な思い出づくりを体験いただきました。事後アンケートからも、より街に愛着が持てたとフィードバックをいただき効果を感じています。今後も、丸の内で勤務されている方々の声を聞きながら、いきいきと働きたい+訪れたいと感じる街づくりを取り組んでいきます。
―― 丸の内のファンづくりですが、活動前と現在ではどのような効果がありましたか?
長坂さん:三菱地所単体の施策ではなく、ワーカーの皆さまと作り上げていく施策に変わることができました。update! MARUNOUCHI でもこのような施策を行うことで丸の内という街へのポジティブな感情を多くのワーカーに持っていただけていることがわかりました。また、アンケート結果からもファン施策に関して街のワーカーの皆さんが好意的にとらえていただき、興味を寄せていただいているのも感じています。
―― ワーカーと共創した取り組みは、自社だけの取組みと何か違いはありましたか?
猿橋さん:丸の内を好きでいてくれる方(コアファン、ファン)だからこそのアイデアがいただけます。当社のみですと様々な規制や予算など、実現可能性の視点で考えてしまいがちですが、皆さまの意見を集めることで我々だけでは思いつかないような面白いアイデアをいただけますし、我々にとっても新しい気づきをいただいています。もちろん全て実現するというのは難しいですが、少しでも活かせる部分はないかを日々考え実際にイベントなどをかたちにしています。
―― 例えば、どんなアイデアが飛び出しましたか?
猿橋さん:ファンコミュニティで、冬のシーズンに合わせてウィンタースポーツを掛け合わせた施策をやりたいという声をいただきました。実際に多くの方に参加していただけるよう、関係各所と連携して調整し2023年12月に行幸通りでスケートを貸し切り、特別非日常な時間を皆さんに体験いただきました。
―― 冬のスケートイベントも人気でしたね。
そういえば、スケートリンクが氷ではなく特別なマテリアルを使われていましたね。クリスマスイベントで街ゆく人たちに配ったモニュメントのプレゼントも環境に配慮した素材を使われていてSDGsの取り組みもされているのでしょうか?
長坂さん:スケートリンクの設置自体は我々がメイン担当ではないのですが、グループでの企画会議時に三菱地所グループとして丸の内にふさわしいものを検討する中で、なるべく環境に配慮したイベントを提供したいと考えてSDGsの要素を付け足しています。
―― 学生やファミリーなど、新しい層の人たちが来るようになりましたが...
逆に、従来の丸の内ファンの中にはそれを喜んでいない方もいるのではないでしょうか?
橋本さん:どんなことでも新しいことをするとき、一定数の賛成ではない方がいると思います。「なぜ、やっているのか」、「街がこんな良い方向に変わっているのだ」ということを丁寧に説明して、発信していきたいと思っています。自分たちもアンケートで改めて気付いたのですが「丸の内を好きな理由」をきいたところ「いろいろ新しいものが取り込まれて変化していくところ。歴史のあるこの街も好きだけど、さらに変わっていくところも好き」という回答がありました。変わらないことの大切さも大事ですが、新しいことを受け入れて変わっていくことも大切にしたいと考えています。三菱地所や多くの地権者の皆さんと一緒に取り組んでいるビジョンは、この街のためにやっていて、独りよがりではないことを丁寧に説明しながら、一つ一つ対応していきたいと思っています。
―― 歴史のある丸の内ということですが、三菱地所がこのエリアに根付き、街を成長させてきた時代背景について教えてください。
猿橋さん:創業以来100年以上に渡り、三菱地所はオフィスビルを中心に丸の内の街づくりに取り組んできました。かつてここは日本の政治・経済・文化の中心となった江戸城があり、諸国の大名屋敷が立ち並ぶ街並みだったのですよ。
―― 歴史を感じます。
長坂さん:明治時代となり、1890年に三菱社の社長である岩崎彌之助が政府からの要請を受けて丸の内一帯を取得しました。その背景としては「この地に日本が近代国家の道を歩むために、N.Yやロンドンのようなビジネスセンターをつくる必要がある」という確信があったのです。そして時を経てビルの建て替えが進み、ビルが大型化する中でエリアも広がり、現在はシェアオフィスやラボ的な機能を持ったイノベーション施設も多くなってきました。
―― 5年後10年後、未来の丸の内ワーカーのコミュニティやはたらく人の姿はどうなっているとよいと思いますか?
猿橋さん:丸の内という場所が「多様な方が最適な時間に集まり、交流して価値を生み出す舞台」になればと思っております。それに伴い今以上に多様な方々が集まり、新しい価値や体験をこの街から発信していきたいです。
―― みなさん、インタビューにご協力いただきましてありがとうございました。後半は、猿橋さんの素顔に迫ります。
(取材日:2024年3月12日 / 取材者:菊池由佳)
取材にご協力いただいた方
取材にお答えいただいたのは、三菱地所株式会社さんです。三菱地所は、オフィスをはじめ、住宅商業施設、ホテルや地方空港など、総合デベロッパーとして様々な不動産事業を手がけています。メディアの運営やイベントを企画するチームや、公共の空間を活用しているチームがあり、エリアマネジメント企画部(※)は、大手町・丸の内・有楽町エリアのサービス開発を担当しています。
※エリアマネジメントとは、特定のエリアを単位に、民間が主体となって、街づくりや地域経営(マネジメント)を積極的に行おうという取組みのこと。