日本でも女性活躍が叫ばれ、多くの企業や組織がその推進に取り組んでいます。働き方改革などさまざまな変化の中で女性の社会進出が進み、多くの分野で活躍の場が広がっています。
しかし、その一方で「インポスター症候群」という心理的障壁が、女性のキャリアの成長やリーダーシップを妨げる大きな要因となっていることが指摘されています。
そこで今回は、インポスター症候群とは何か、その背景にある要因やなぜ特に女性に多く見られるのか、なぜ女性の活躍を阻むのか、企業がとるべき対策についてまとめました。
目次
●インポスター症候群とは?
●インポスター症候群の特徴
・チャレンジを避ける
・自己評価・自己肯定感の低さ
・新しい挑戦や成功に対する不安感
・インポスター症候群は女性に多い傾向
●インポスター症候群が生じる5つの原因
1:心理的要因
2:家庭環境の影響
3:過度な責任感
4:周囲の評価に敏感
5:ジェンダーステレオタイプ
●インポスター症候群が女性活躍を阻む3つの理由
1:成長機会の逸失
2:ロールモデルの不在
3:ジェンダーステレオタイプの増幅とさせダイバーシティの阻害
●企業がとるべき4つのインポスター症候群対策
1:メンタルサポート体制の整備
2:社員研修の実施
3:ワークライフバランスの改善
4:アンコンシャス・バイアスの克服
●インポスター症候群を克服する方法
・現在に集中する
・完璧主義をやめる
・自分を認め、褒める
・人の助けを借りる
・SNSとの付き合い方を見直す
●まとめ
インポスター症候群とは?
インポスター症候群とは、高い能力と実績があるにもかかわらず、自分の能力を過小評価し、自分の成功や成果が実力によるものではなく、運や偶然によって得られたものであると感じる心理状態を指します。「自分は詐欺師(インポスター)である」という強い疑念を抱き、いつかその「欺瞞」が露見するのではないかという不安を抱えています。
1978年に心理学者ポーリン・クランスとスザンヌ・アイメスが初めてこの概念を提唱しました。インポスター症候群は、男女問わず見られますが、特に高学歴者や高い地位にある人に多く見られる傾向があり、女性において顕著に見られることが指摘されています。
インポスター症候群の特徴
インポスター症候群には軽度なものから深刻なものまであり、場合によっては日常生活や仕事に深刻な支障を来たすことがあります。自分自身や職場の仲間がこの症候群に陥っていないかをチェックするためにも、次にあげるインポスター症候群の主な特徴を押さえておきましょう。
・チャレンジを避ける
インポスター症候群に苦しむ人は、「失敗したらどうしよう」という恐怖や、「自分には無理だ」といった自己不信から、新しい挑戦を避ける傾向があります。このため、リスクを伴う状況を避け、安全な選択をしがちです。
・自己評価・自己肯定感の低さ
インポスター症候群の大きな特徴は、自己評価が低く、自分の能力を過小評価することです。たとえ他者から評価されていても、自分にはその価値がないと感じ、成功を偶然や幸運の結果とみなしがちです。これにより、自己肯定感が著しく低下し、自分を卑下してしまうことが多いです。
・新しい挑戦や成功に対する不安感
成功した場合でも、それを維持できるか、次も同じ成果を出せるかといった不安がついて回ります。これらの不安は、新たな挑戦への意欲を妨げることがあり、成功を素直に喜べないメンタルブロックになりえます。
・インポスター症候群は女性に多い傾向
多くの研究で、インポスター症候群は性別を問わず存在することが示されていますが、特に女性に多く見られるとされています。これは、社会的な期待や育児・介護の負担といったジェンダーによる役割分担が影響していると考えられます。ただし、近年では男性も同様の経験を報告することが増えており、性差についての理解は進んでいます。
インポスター症候群が生じる5つの原因
インポスター症候群は、多くの人に影響を及ぼす心理的な現象です。この症候群が生じる原因はいくつかありますが、その主な原因とされるのは、次の5つがあげられます。
1:心理的要因
自己肯定感の低さや完璧主義など、個人の心理的特性がインポスター症候群の発症に関与しています。特に完璧主義や自己批判の傾向が強い人は、自分の能力を過小評価し、成功を運や偶然のせいにする傾向があります。常に高い基準を自分に課すことで、たとえ成功しても「十分ではない」と感じてしまいます。
2:家庭環境の影響
家庭での経験が、自己認識に重要な影響を与えることは少なくありません。成長過程で親や家族からの期待やプレッシャーが強かった場合、自分の能力を疑ったり、本当の自分を見失ったりすることがあります。
3:過度な責任感
責任感が強すぎると、自分の成功や能力に対し過度に厳しい評価を下し、自らを偽物だと感じることがあります。高い目標を設定し、常に最高の結果を求める人は、インポスター症候群に陥りやすいです。失敗を恐れるあまり、自分の能力を疑い、不安に駆られてしまいます。
4:周囲の評価に敏感
他人からの評価や批判を過度に気にする人は、自分の能力や成果に対して常に不安を抱きがちです。褒められても素直に受け止められず、自分の能力を疑ってしまいます。
5:ジェンダーステレオタイプの影響
ジェンダーステレオタイプとは、性別に対する固定的な思い込みやイメージのことです。このステレオタイプが、インポスター症候群が生じる社会的背景にもなっています。特に男性ばかりが企業の中核を占める職場では女性はロールモデルを見つけにくく、自分の能力や組織への貢献、リーダーシップスタイルについて違和感を持ちやすいため、インポスター症候群を引き起こす可能性が高くなります。
世界経済フォーラムの「ジェンダー・ギャップ指数2024 」において、156か国中118位と順位の低い日本では、このような組織がまだ多い可能性があるため注意が必要です。
インポスター症候群が女性活躍を阻む3つの理由
女性の社会進出が進む中、インポスター症候群は多くの女性が自身のキャリアにおいて直面する大きな障壁となっています。この心理的課題は、個人の成長だけでなく、組織全体のダイナミズムにも影響を及ぼしかねません。では、なぜこの症候群が女性活躍を阻むのか。ここでは、その主な3つの理由をまとめていきます。
1:成長機会の逸失
インポスター症候群に陥ると、自分の能力を過小評価するあまり、昇進や新たな責任を引き受けることを躊躇してしまいます。その結果、キャリアアップの機会を逃すだけでなく、自信のなさが仕事への意欲低下につながることもあります。企業としては、性別に関わらず有能な人材を適材適所で活用することが成長につながるため、女性がインポスター症候群で成長機会を逃すことは本人と企業の両方にとって大きな損失です。
2:ロールモデルの不在
インポスター症候群に悩む女性が増えると、組織内で自信を持って活躍する女性のロールモデルが不在になってしまいます。これは、他の女性社員、特に若手女性社員にとって、将来のキャリアビジョンを描きづらくなる要因となります。ロールモデルの不在は、女性の活躍意欲を削ぐだけでなく、男女間の不平等な状況を永続してしまう可能性があります。
3. ジェンダーステレオタイプを増幅させダイバーシティの阻害
女性の自己評価の低さは、組織内のジェンダーステレオタイプを強化してしまう危険性があります。そして、女性がインポスター症候群に陥ることで、組織内のジェンダーダイバーシティが損なわれます。多様な視点や価値観を取り入れることは、イノベーションや問題解決において重要ですが、女性の声が十分に反映されない状況では、その効果が限定的になってしまいます。女性の活躍を推進するためには、インポスター症候群を克服し、女性が自信を持って能力を発揮できる環境づくりが不可欠です。
企業がとるべきインポスター症候群対策
女性の活躍推進は多くの企業にとって重要な課題となっています。しかし、女性社員の中にはインポスター症候群に悩む人も少なくありません。このような状況を改善し、女性の活躍を促進するために、企業はどのような対策を講じるべきでしょうか。企業がとるべきインポスター症候群の5つの対策をまとめました。
・メンタルサポート体制の整備
企業は、カウンセリングや1on1ミーティングを通じてメンタルサポート体制を整備する必要があります。これにより、インポスター症候群の可能性がある社員を特定し、メンタルサポートを通じて自己肯定感の向上を目指します。能力相応のポジションを任せ、実際に実績を残すことで自己肯定感のさらなる向上を図ります。
・社員研修の実施
インポスター症候群についての理解を深めるための社員研修を実施することが重要です。女性社員を対象にした研修では、インポスター症候群についての理解促進、自己肯定感を高めるためのワークショップ、女性の成功事例の共有などをおこないます。インポスター症候群の傾向に気づいてもらった上で、社内外の女性成功事例を共有し「自分でもできそう」と思ってもらうことがポイントです。
・ワークライフバランスの改善
インポスター症候群を抱える人の中には、ワークライフバランスの問題を抱えるケースが多く見られます。企業は、多様な働き方の導入や福利厚生制度の充実、育児支援策の提供を通じてワークライフバランスの改善を図ります。インポスター症候群の改善と女性のキャリア形成にプラスに働くことが期待できます。
・アンコンシャス・バイアスの克服
企業は、アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)を克服することも重要です。具体的には、自己肯定感を高める働きかけを強化し、一つの集団に固まらず、さまざまな集団に所属することで、内集団バイアスを克服することができます。
インポスター症候群の対処法
多くの人が経験するインポスター症候群は、自分の成果や能力を正当に評価できず、不安に感じる状態を指します。しかし、これを克服するための具体的な方法はいくつか存在します。最後に、その実践法をご紹介します。
1:現在に集中する
未来の不安に押しつぶされてしまうと、今に集中することができません。特に、ネガティブな思考は心身に大きな負担を与えます。目の前の課題に集中し、未来への過度な不安や他人の評価を意識せず、自分の持っている能力を最大限発揮しましょう。これにより、少しずつ自己価値を再確認できるようになります。
2:完璧主義をやめる
自己や他者に完璧を求めることは、プレッシャーを生む原因となります。理想と現実のギャップに苦しむのではなく、不完全さを許し、過度な期待を手放すことで、心の負担を軽減しましょう。完璧でなくても前進することが大切です。
3:自分を認め、褒める
日本の文化では謙遜が美徳とされがちですが、自分を過小評価し続けると自己肯定感が下がってしまいます。褒められたときや自身の成果を認識したときには、素直に受け入れることを意識しましょう。また、小さな成功体験を大切にし、自分をしっかり褒めることで、自己評価を高めていく習慣を築きましょう。
4:人の助けを借りる
一人で全てを解決しようとするのではなく、信頼できる人に相談したり、助けを求めたりすることも重要です。仲間や同僚の意見やサポートを得ることで、新しい視点が得られ、インポスター症候群の克服に向けて大きな助けとなるでしょう。
5:SNSとの付き合い方を見直す
SNSは、他人との比較を助長し、自己評価を下げる原因になりがちです。他人の成功や理想化されたライフスタイルに影響されないために、SNSでの情報収集を控えることも役立ちます。SNSとの付き合い方を見直し、必要以上に他人と比較しないようにしましょう。
まとめ
インポスター症候群は、自分の能力や実績を過小評価し、自分の成功は運や偶然の結果であると感じてしまう心理状態です。特に女性に多く見られ、チャレンジを避けたり、自己評価が低くなったりすることで、キャリアの成長を阻害する要因となっています。
その原因は、心理的要因、家庭環境、過度な責任感、周囲の評価への過敏さ、ジェンダーステレオタイプなど多岐にわたります。企業は、メンタルサポート体制の整備、社員研修の実施、ワークライフバランスの改善、アンコンシャス・バイアスの克服などの対策を講じることで、女性社員のインポスター症候群を軽減し、活躍を支援することができます。
また、個人レベルでは、現在に集中し、完璧主義をやめ、自分を認め、褒め、人の助けを借りることが大切です。SNSとの付き合い方を見直すことも効果的でしょう。
インポスター症候群を克服し、自分の能力を正当に評価することができれば、女性はより一層活躍の場を広げていくことができるはずです。組織と個人が協力して、インポスター症候群に立ち向かい、ダイバーシティを推進していくことが、これからの社会に求められています。