当社のビジョン「"はたらき"から、笑顔を」に共感いただける企業や人に、実際に働きの中から笑顔を生み出す秘訣や成功事例を取材する『はたらき見聞録』シリーズ。
今回は、お酒を片手に誰もが気軽に人的資本経営について語り合える「人的資本経営BAR」の仕掛け人であるコテラスの山永さんに誕生秘話や、店長制度を取り入れたユニークな活動についてインタビューしました。
「人的資本経営BAR」のユニークな活動についてインタビュー
―― 唯一無二なコンセプトですね。どんなBARなのですか?
一般社団法人KOREWOKINIが運営していて「ソーシャルバー」をコンセプトに1日店長制度を設けています。
それぞれの店長が本業を持ち、自分の会の日にお店に来るスタイルで、私も店長のひとりとして参加しています。お客さまは、店長の繋がりからテーマに興味を持った人たちが集い、そこからまた新たな出会いが生まれています。
私の「人的資本経営BAR」は、2023年8月に初回を実施しました。
―― なるほど。なぜ、山永さんは「人的資本経営」をテーマに決めたのですか?「人的資本経営BAR」の誕生秘話を教えてください。
私が、今まで企業の人事分野で仕事をしてきたこともあり、私が店長をするならやはり人事に関わることをテーマにしたいと考えました。
当時、ESG投資の文脈や開示義務化の影響で"人的資本経営"というワードが熱いトピックだったので、そのまま「人的資本経営BAR」と命名しました。
ちなみに、人的資本経営をご存知でしょうか?
人材を"資本"と捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業の価値向上へと繋げていく経営手法のことです。時代背景としては、2023年4月より政府が有価証券報告書を発行する企業を対象に、人的資本の情報開示を求め義務化されたこともあり、人事の現場では「何を開示したらいいのかわからない」という声も出ていました。そこで、フラットに他社事例などが聞け、様々な角度で語り、知見を高め合い、私自身も学べる場を作りたいと考えました。
すでに10回開催していますが、"人事"という括りだけでなく、CHRO(最高人事責任者)やCFO(最高財務責任者)、IRや人事担当者、人事系ソフトウェアのベンダーなど人的資本経営に関わる幅広いステークホルダーとのつながりが広がってきています。
―― 山永さんの主な役割を教えて下さい。
交流しやすい「場作り」が重要な役割です。
他にも、当日の店長としてお客さまの飲み物出しから、トークセッションでの司会進行、会計、ゴミ捨てまで一通りを担っています。
セッションでは、テーマが決まった最初のタイミングで、この分野の知見者とこの分野の専門家が対談するとおもしろそうだと、タレントのマッチングも考え、登壇のお声がけや企画の座組みをしています。
―― 話しやすくする場作りの秘訣はありますか?
いい意味で"ゆるいつながり"を心がけています。
BARなので講演や勉強会といったカチっとした場ではなく、お酒を楽しみながらフラットな雰囲気の中で対話ができるのが魅力です。そのためには空気感って大切ですよね。「知」のつながりをメインにして、リード獲得など極端な営業を目的とした空気を排除して、風通しをよくするように工夫しています。
また、パネルディスカッションは30分間と決めてテンポの良さを大切にし、時間内で参加者からの質問を受付けながら進めています。逆に、交流は長めに時間をとって、もう少し深く聞きたいという方へは登壇者を紹介して対話してもらうようにしています。
人的資本経営に興味がある人たちは、もともと人に対して興味や関心が高く、ポジティブ思考の方が多いので自然と繋がりが派生していますね。
―― 私も何度か参加させてもらいましたが、みなさま知的でお話も楽しくて居心地がよかったです。初回はどのような雰囲気だったのでしょうか?
うれしいです。ありがとうございます!
発起人は3人います。店長は私が、ゲスト店長として、楽天時代の先輩でもある元楽天IR責任者の市川祐子さんと株式会社イー・ファルコン代表取締役の田中伸明さんに、対談いただき、現在まで10回以上イベントを開催しています。(取材時点)
初回はテーマを絞らず"人的資本"を名目に、市川さんと田中さんにトークセッションしてもらいました。
―― 参加者はどんな顔ぶれですか?
田中さんが人的資本経営推進協会の理事だったこともあり、人事担当者で人的資本に関心の高い方が多いと思っていましたが、市川さんの繋がりからIRの開示担当者もいらっしゃいました。
当初は人事関連の人が多かったのですが、人事や人的資本経営の開示に関わっていない方でも参加しやすいように枠を取り払うことで、回数を重ねるごとに関係者も増え、今では業界・業種に幅が出てきましたよ。
―― どのような幅の広がりですか?
人事系ですと、人事管理システムや採用管理システムに携わるHR Techの方にお越しいただいたり、ESG投資に関心のある方や、機関投資家、企業のサステナビリティ部門の方々まで、業種を超えて多様性を持ったカルチャーが醸成されています。
これは私にとっても喜ばしいことで、人的資本経営BARを運営してよかったとやりがいを感じています。ありがたいことです。
―― まさに「知」の輪が広がっていますね。他にはどんなテーマがありましたか?
人的資本経営として、個の自律や、従業員一人ひとりがやりがいを持って活き活きと働ける環境づくりといったテーマがありますが、「組織におけるWell-beingのあり方」と題して、楽天創業メンバーで、Chief "Well-being" Officerを務める小林正忠さんと市川さんでトークセッションをしていただき大盛況でした。
また、リスキリングも一つのテーマとしてあげられますが、従業員がリベラルアーツや業務に必要なスキルを幅広く学ぶ機会を提供する、株式会社ドコモgaccoの佐々木社長に登壇いただいた回も非常に学び深い時間でした。
さらにジャンルを広げて、アカデミックな見識者もお招きしています。先日は横浜国立大学の『豊穣なつながり研究所センター』の河野克典さんと、3時間かけて対話会を実践形式のワークショップとして開催したこともあります。
他にも、人的資本に関連のあるHR Tech会や、D&I(ダイバーシティ アンド インクルージョン)、ニッチなところだと「ISO30414のリードコンサルタント」といったテーマでも開催しています。
―― 人的資本経営を軸に、多様なテーマで展開されているのですね。中でも山永さんが印象深かったセッションはありますか?
企業コミュニケーションと対話を研究されている水谷美由起さん、大手企業の視点をお持ちの小泉朱里さんとの対談です。「大企業における対話」の学術的な知見と実践知の掛け算から、組織開発には、ボトムアップとトップダウンの両立が重要であることを教えていただきました。
―― 人的資本経営BARをきっかけに、新しい価値観や繋がりをもたらした事例がありましたら教えてください。
スタートして1年が経ちましたが、参加者からビジネスアライアンスにつながりそうだという声は何件か聞いています。知見の共有・情報交換を主目的としつつ、結果としてビジネスアライアンスなどに繋がるのなら、それはそれでうれしいことだと思います。
―― 一方で、人的資本経営BARで感じている課題や改善点、今後の展望などはありますか?
SNSを活用したコミュニティー化の検討です。
人的資本について、もっとフランクに触れられるような仕組みを強化していきたいと考えています。改善点は、現状の運営方法だとアーカイブが作れないので、今後は資料や情報をストックして参加者の方が後からでも見ていただけるように整えたいと思っています。
今後の展望としては、自薦他薦問わず、新しい店長と様々なコラボの形が増えるといいなと思っています。これを機に、何かをやりたいと考えていた方への企画のサポートや運営支援をして、さらに新しい価値観や広がりを生みだしていきたいです。
―― 人事の知見が豊富な山永さんですが、エンゲージメントを高めるとどんな効果をもたらしますか?
いくつかの機関投資家やコンサルティングファームの研究によると、中長期的な結果として、エンゲージメントが高まることで従業員のやる気が向上して、生産性があがり、企業価値もあがると言われています。
まだまだ現場の感覚は少ないですが、大企業・スタートアップ・経営者と経験してきたからこそ、いずれの角度においても、エンゲージメントを高めることの価値はあると考えています。
―― 山永さんは、3年後、5年後、10年後の日本企業の人的資本経営がどうなっているといいですか?
日本発の人的資本経営の考え方が、世界へ出ていき、逆輸入されていくまでの循環ができると理想ですね。
少し言い過ぎかもしれませんが、アメリカ式を日本にただインストールするだけではだめだと思います。例えば、「トヨタのカンバン式」のように、日本ならではの勝ち方を海外に輸出し、さらに日本でも進化した形で帰ってくる流れができるのではないかと考えています。
人材版伊藤レポートにもありますが、アメリカと比較してみると、日本企業は無形資本に対しての投資額が少ない。日本ならではの人的資本投資の勝ち筋をみつけ、テクノロジーと掛け合わせていくと、日本全体の生産性が高まるのではないでしょうか。
―― とても勉強になりました。ありがとうございます。
ここからは、山永さんの素顔に迫ります。
―― 日頃はどのようなお仕事をされていますか。
株式会社コテラスのCEOとして、HRに関連する自社プロダクトを開発しています。また、採用コンサルティング、組織開発のファシリテーター、受託開発など、並行してお受けしています。
―― 山永さんのお仕事のやりがいについて教えてください。
社会が抱える課題をしっかりと把握して、それをビジネスとして成り立つように実現させる。その中にイノベーティブな発想を盛り込むことが難しくもあり、やりがいがあると感じています。
―― 日々の社内コミュニケーションで、大切にしていることはありますか?
毎日「look back」をしています。
look backとは思い返すという意味を持っていますが、たとえば、過去の出来事を思い返す、過去の決定や行動を再評価するなどの意味合いで使っています。前日の夜に書いたLookbackをもとに、毎朝メンバー同士で日報的な情報を共有しています。これは、前職のLabBaseのカルチャーを踏襲しているのですが、考えていることをなるべく言語化して、脳を同期させることの大切さを実感し、実践しています。
―― 働く上で一番大切にされている軸はなんですか?
「対話」です。
仕事に限った話ではないのですが、関係の質を高めるために必要なことは対話だと確信しています。これから社員も増えていくなかで、私自身も一人一人と多くの対話ができるための仕組みを工夫して作っていきたいと考えています。
―― 最近ハマっていることはなんですか?
まさに「人的資本経営」です!笑
最近では、各社の開示情報を見るボランティアグループに参加したり、海外の論文を輪読する勉強会に参加したりと、すっかりハマっています。
―― 一緒に仕事をしてみたい、一緒にプロジェクトを形にしたら絶対面白いと感じる人はいますか?
立教大学の中原淳教授とどこかでご一緒できると嬉しいです。ブログや著書を拝見し、多くの組織開発の理論や手法を学ばせていただきました。
他にも、"ヒトを科学"しようと頑張っている方や、社会的な組織学と哲学を融合させた見識者や、その学問を紐解いていこうと努力されている方と一緒に、プロジェクトを形にしてみたいです。
―― 山永さんが働く中で笑顔が生まれた体験やエピソードがあれば教えてください。
コロナ渦でリモートワークの方も増えて、社内コミュニケーションも気薄になってくる中で、私はゲラゲラ笑って仕事をしていたので、シェアハウスのルームメイトに「よく仕事してる時に笑ってるよね」と言われたことが印象的でした。
楽天の三木谷社長の著書に「仕事そのものは楽しくないことあるが、楽しい仕事をつくるのは人間だ」と記載があり、そのマインドで仕事しているのが一つの理由かもしれません。
―― 最後に、見ている方へメッセージをお願いします。
人的資本経営BARは名前の響きが少し固いこともあって、「私も参加していいですか・・?」とご質問をいただくこともあるのですが、どなたでも参加をお待ちしています!人事関係者でなくとも、人的資本経営というテーマ自体は全ての方に影響がある考え方だと思います。また、店長側で立ちたい方も、お気軽にお声がけください。
ふらっと、お酒を飲みに来るくらいの感覚で、いつでもお越しください!
―― インタビューにご協力いただきましてありがとうございました。
(取材日:2024年7月10日 / 取材担当:菊池由佳)
取材にご協力いただいた方
取材に答えていただいたのは人的資本経営BARの店長であり、コテラスCEOの山永さんです。人的資本を促進するリスキリングサービスの事業を起業されて、人事現場の豊富なご経験より今回の取材にお答えいただきました。
【イベント告知】
人的資本経営BARの各種イベント情報
場所:中央区銀座3丁目14−8片桐ビル v302 | By 株式会社コテラス
時間:Barのオープンは19:00、パネルセッションは19:30ごろを予定。
お申し込みは peatix のページよりお願いします。